────すごく、嫌な感じがする。
本当なら父さんの車を使って聖皇峯へ向かおうとしたけど、今日は運悪く父さんが出張祭典の日で車が使えない。
最寄りの駅から電車に飛び乗り、約40分揺られて聖皇峯への道を行く。けれど嫌な感じはそこへ近づくほど強まり、言いようのない不安が徐々に押し寄せてきていた。
帰宅ラッシュの人波も、聖皇峯へ向かうにつれ、減っていく。
聖皇峯の周辺に着く頃には辺りに人影はなく、まるで世界から切り離されたような異常な静けさに身震いした。そんな静けさ残る道も超え、いよいよ聖皇峯へと辿り着いてその校舎を見上げた時────。
「なん、これ……」
「嘘やろ……」
2人して言葉を失うような光景が広がっていた。豪雨で水かさの増した校庭に捨てられたように横たわる生徒達。
そこに腹を空かせた屍が死肉に群がるが如く、生徒達に跨り魂を引きずり出そうとする1体の黒く、大きな霊魂。
後者はもちろん、俺と徳兄にしか見えていないものだが、その恐ろしさは尋常じゃない。
思わず緩んだ俺の手から傘が滑り落ちる。その音でこっちに気がついたそいつはゆっくりと顔を上げた。
見るな。見ちゃダメだ。目を、合わせたら……──。