「……そうか。そうだったのか……」

「信じて、くれるんですか?」

「信じるも何も、日澄宗(ひすみそう)寺院の実の息子さんに、あの有名な与雅澄(よがすみ)神社の実の娘さんが言うんだ。疑う余地もないよ」




 麗司は優雅に微笑み、再び口を開く。




「雨香麗は市街の中央病院にいる。市街の中央病院なんてひとつしかないから行けばすぐわかると思うけど……金藤(きんどう)総合病院っていう場所」

「雨香麗ちゃん……ほんとに入院してるんだ……」




今までいろんな人から聞いてきた話を思い出したようにぽつり、と呟いた瑮花を少し憂いた瞳で見て、麗司は口を開いた。




「……うん。ずっと寝たきり。あれから一度も目を覚まさない」

「何があったんか、聞いてもいいですか」




 遠慮がちではあったものの、はっきりとそう告げた宗徳に頷き返し、雨香麗について話し出す。

 あの日、雨香麗はいつも通りだった。何も普段と変わらない。

 それなのに、麗司が学校から帰るといつもは出迎えてくれる雨香麗の姿がなく、不審に思ったそうだ。同時に嫌な予感がした。

 一度自室へと戻り、鞄を置いてから雨香麗の部屋へ行って声をかけたものの中から返事が返って来ない。一言入れてドアノブを回し部屋へ足を踏み入れれば、そこには目を覆いたくなるような光景が広がっていたと言う。




「雨香麗は血だらけで……辺りには、どこでそんなに手に入れたのか、薬がたくさん、転がってて……」




 当時を思い出したのか、話しながら喉を唸らせて麗司は口と胸を押さえ、蹲ってしまう。

 すぐに宗徳が駆け寄って「すんません、もう大丈夫です」と背を撫でてやると、何度も首を縦に振りながら次第に目に涙を浮かべ、俯いた。

 相も変わらず鳴りやまぬ豪雨。

 その中にすすり泣く嗚咽が響き渡り、一帯には悲しみに淀んだ空気が蔓延(はびこ)っていた────。