瑮花がミルクとシロップを入れ終わったのを見て青年は語り掛ける。




「我が家へようこそ。先に自己紹介からしようかな。さっきは慌ててたし、ちゃんと話せてなかったからね。僕の名は紅苑 麗司。涛導富(とうどうふ)大学4年生」

「オレはこういうもんです」




 麗司に習い、宗徳も改めて名刺を差し出した。

 その名刺を眺めていた麗司はすぐに顔色を変え、「父にもこれを?」と問う。首を縦に振った宗徳が当時を説明すると、麗司は気まずそうに口を開いた。




「父が失礼を……本当に申し訳ない」




 まさか謝られるとは思ってもみなかったのか、宗徳が慌てて放とうとした言葉は麗司によって遮られた。




「いいんだ。……実はね、この日澄宗(ひすみそう)寺院に、僕の母が眠ってて」




 それを聞いた途端、2人はかける言葉がなくなってしまう。こういった雰囲気になることなど想定内、とでも言いたげに麗司はあくまでも平然を装って話し続ける。




「皆、母のことが大好きだった。特に父は。……たぶん、僕達子どもより母を優先していたと思う」




 父が子どもより母を優先してしまっていたのも、母が持病を(わずら)い、常人より遥かに弱い存在であったからだと麗司は話す。