耳を塞ぎながら「お前わかりやすいし」と言うと、瑮花は捲し立てるように掴んでいた宗徳の襟元を離し、視線を落とした。
再度宗徳が声をかけようと口を開くよりもさきに、瑮花がぽつりと呟く。
「……いいの」
声は震えているが、それでも瑮花は己の迷いを振り払うように顔を上げた。
「いい。あたしが決めたことだから」
「……そうか」
瑮花の目には後悔も曇りもなく、宗徳もそれ以上問うことをやめ、2人は再び人の行き交う前提を見渡した。
「でも……この中から麗司さんを捜すのは……」
広大な敷地に溢れかえる人々を見て瑮花は不安そうな表情をする。そんな瑮花を横目に宗徳はいつもの調子で
「生徒らに聞けばすぐやろ。すぐ戻るさかい、そこで待っとき」
そう言って東屋に瑮花を残し、大股で近くの学生達の元へと歩いて行く。
少し先を考えただけで気が重くなってしまった瑮花とは対照的に、宗徳はまるで〝今この瞬間〟のことだけを考えて動いているように見える。
そんな宗徳を見ながら瑮花は後ろ手を組み、壁に体を預け小さなため息を吐く。するとまるで瑮花が1人になるのを待っていたかのように、3人の男達が歩み寄った。
「こーんちは」
「誰か探してんの?」
「よければ僕達が案内したげようか」