少女も赤の他人、という立場のおかげかすんなりと事情を話し始める。




「あかりとは喧嘩しちゃって……。わたし、あかりのお兄ちゃんのことが好きだったんだけどね、あかりのせいでいろいろ大変なことに巻き込まれちゃって」




 あかりが理事長の娘であるために、親友であった由海(ゆみ)が周りの妬みを買い、いじめを受けてしまったこと。由海(ゆみ)があかりの兄へ好意を寄せていたにも関わらず、それを知ったあかりは兄を取られたくがないためにその権力を使い、いじめを仕向けていたらしかったこと。周りに〝あかりと絶交すればいじめられない〟と言われ、それを決意したこと。

 次第にあかりからは人が離れていき、由海(ゆみ)もいじめられることがなくなったと言う。それからあかりがどうなったのかは知らないらしい。




「病んで入院してる、とか……家庭教師雇って勉強してる、とか聞くんですけど、学校に来ていないこと以外は何も」

「そうなんだ……。由海(ゆみ)ちゃん、つらかったね」

「はい……でももう大丈夫です」




 その笑顔には曇りも影もなく、心の底からそう思っているように見えた。瑮花もつられるように笑顔になり、またひとつ疑問を問う。




「あかりちゃんのお兄さんって、いくつなの?」

「大学生、22歳です」

「大学生!? 待って、由海(ゆみ)ちゃん高校生だよね……? 16歳なんだよね……?」




 当たり前のように答える由海(ゆみ)に瑮花は度肝を抜かれる。それもそのはず……──。




「今の高校生ってそんな大人な恋愛するの? あたしも高校生だけど……17だけどそんな恋したことない!」

「お前らそんな歳変わらへんって……」

「あのね。高校生には……学生には、学年ひとつ違うだけで大きな差が出るの!」

「ふふっ。なんかそれ、わかります」




 少し雨脚の弱まった中、賑やかに言い争う声が空に溶け入る。

 例えそのどこかに偽りがあろうとも、今この瞬間(とき)に浮かぶそれぞれの笑顔は、確かに心の底からのものだった────。