浄霊師は神慈職(かんじしょく)の中でも最低ランクの職種で、兄貴と並べへんかったこと。ちっさい頃からなんでもでき、霊魂(れいこん)の声を聞くこともできたいわゆる天才な兄貴と比べられるんがつらかったこと。考えるだけで耐えられへんかったオレは、ほんまやったら寺継ぐんも嫌で逃げようとしたこと。

 でも、兄貴が死んで……今まで逃げてきたもんに向き合わされた。
 逃げてきた分全部が津波のように押し寄せて、ほんまに潰れてまうかと思ったこともある。

 それでもオレが諦めへんかったんは柴樹がおったからや。兄貴がアイツのこと命懸けて守ったんに、間違ってでもアイツが死んだら、兄貴の死までもが無駄になってまう。

 だからこっちも死に物狂いでここまで這い上がって来たんや。




「向き合って必死こいて勉強して……もともとの才能ないヤツがやで? どうせなるんやったら兄貴と同じ場所に立ちたかってん。でもまぁ……オレは結局、浄霊師(ここ)止まりやけどな」




 全てを話し終え、頭を上げながら隣にいるはずの瑮花を見れば、その顔は雨に打たれたわけでもないのに濡れていた。




「え、なんで? なんで泣いて……」

「……ごめん、あんたのこと……酷い奴だと思ってた」




 瑮花は目に涙を浮かべながら理由(わけ)を話してくれた。

 あの日、オレがどなったんをたまたま部屋の外で聞きはったらしい。
 ……やからコイツのオレに対する態度、なんかきつかったんや。勝手に敵視されてた、ってことか。




「よし! 帰んで」




 雨は止む気配を見せない。むしろさらに暗さを増したように見える空を見上げ、立ち上がる。
 返事のない隣を振り返れば、瑮花はぐったりと項垂れていた。




「……なぁんや、暗いわ。ほら、帰るんは柴樹んとこやっちゅうに」




 そうつけ足せばゆっくりと顔が上がり、まだ涙目の瑮花と目が合った。

 オレも柴樹んとこ住んではるし、実家が嫌やって言うコイツの着替えくらいは用意せなあかん。事情説明すれば美夜(みよ)さんあたりがどうにかしてくれはるはずや。




「行くんやろ? 紅苑(くおん)のとこ」

「……うんっ!」




 傘の下で待てば瑮花は限界まで貯めた涙を流しながら笑顔浮かべ、駆け足でその中へと入って来た。

 柴樹といい、コイツといい……。

────ほんに、世話焼けるわ。