「ずっと前、秀兄(しゅうにい)が教えてくれた。『こいつがもし出家したら宗徳(そうとく)になるんやで。宗徳(かずのり)から宗徳(そうとく)や』って」

「……それ、馬鹿にしてる時の兄貴やろ」




 柴樹は当時を振り返って笑う。さすがに馬鹿にされたまま笑けることなんてできひんかってんけど、まぁ、気分は悪ない。

 それより……。




「お前、救いたい子おんねやろ? ……しゃあなしに、オレも協力したる」




 そう言って柴樹の手から数珠を取れば、口をあけっぱにして固まっている顔が目に入った。




「なにあほ面かましとんねん」

「い、いや……宗……あ、違った……徳兄(とくにい)が、まさか協力してくれるなんて」

「無理してその名前で呼ばんでもええって……ていうか、あれやからな。神柱に仕えはるんに、その神柱が死ぬようなことあったらあかんやろ。やから……あれや……」




 なんってまとめたら……。

 あれやこれや言うてたら不意に柴樹が吹き出した。





「っな、なんやねん……」

「ごめん……わかった。徳兄(とくにい)が俺と仲直りしたいんは、すごい伝わってきはったわ。珍しく謝るし、協力する言うてくれるし」

「お、おま……! そこに触れるん遅いわ!!」




 いまさら傷口をえぐるように話す柴樹を見てまた顔に熱が集まる。

 ほんま、コイツは憎むに憎めへん奴やわ……。真っ直ぐで誠実で人責めることせぇへん。

 家族とはちと折り合いが悪いかもしれへんけど、だからと言って陰でその愚痴言うわけでもない。コイツはほんまに……──。