かがんで小さな花弁に伸ばした雨香麗の手は(くう)を切る。それに悲しそうな顔をし、雨香麗は弱々しく笑った。




「触れられないのが寂しいね」




 今にも風に攫われて消えてしまいそうなその笑顔。

 ……俺、今ちゃんと笑えてるかな。

 笑みを返したつもりだけど頬が引きつる。

 雨香麗……。

 今は言葉にできない彼女の名を呼び、その頬に手を伸ばそうとした時────。




「っう……!」




 突然、雨香麗が頭を抱えて苦しみだした。




「しずく!?」




 一体、何が起こって……──。

 戸惑い、苦しむ雨香麗の肩を抱くことしかできないでいると、言葉を途切れさせながら雨香麗が口を開いた。




「鈴……鈴のお、と……!」

「鈴……!?」




 そんなの、俺には聞こえない。
 でも雨香麗は〝鈴の音〟と繰り返し言った。とにかく、雨香麗がその音を嫌がるのなら、この場所からは離れた方がいいだろう。




「動かすよ」




 一言そう置き、俺は雨香麗の体を横抱きにする。するとその時遥か遠くの方から風に乗って鈴の音が聞こえた。

────この音は……!