誤解を生んだまま巡り会った徳兄。
秀兄と代わって家に住むことになってから、今まで本当にあっという間だったな……。
たくさんぶつかったし、たくさん笑った。年上だけど秀兄みたいに兄貴感はない。むしろ子供みたいに喚くこともあって、でっかい弟みたいだと感じることもあった。
それなのに、いざって時にはひたむきに俺を守ってくれる。俺は本当に幸せ者だな。
「お前、雅久さん達には伝えたんか……?」
「そうだよ、柴樹のママ達きっともっと悲しむ」
ひとしきり泣いてから、腫れぼったい目をして2人が言う。
「まだ伝えてない。伝えないつもりだよ」
「え……!?」
開かない目を見開いて瑮花は「そんな、ダメだよ」と首を振った。もちろん、俺も口頭では伝えないと決めているだけだ。
「遺書を残してある」
全員分の遺書。
徳兄や瑮花にはどうしても口で伝えたかったからこうして会ったけど、母さんや父さん……爺にまで、こんなことができる自信はなかった。
2人の涙でも充分胸が痛むのに、きっとこれ以上はダメだ。ここに残っていたくなる。
また溢れる涙を必死に拭い、俺は2人に強く抱きついた。
離れたくない。まだここにいたい。皆と未来を歩みたい。
その思いを胸に、俺は人生最後の日を過ごす。
今日だけだから。この日しかないから。決して悔いのないよう、生きる。
皆に精一杯のごめんねと、心の底からのありがとうを伝えて────。