外に出て、真っ先に私は大きく深呼吸をした。

まだ少し肌寒さを感じる4月。

寒い季節は空気が澄んでいて、深呼吸をすると気持ちが良かった。

キャップを深く被り顔を少し俯き加減で歩けば、暗くて私だとはバレない。

夜は、私が唯一自由に外出できる時間だった。

どこかのお店に入るでもなく、何かを見に行くでもなく、ただひたすらブラブラ歩くだけ。

夜の音を聞いて、夜の匂いを感じて、夜の空気を感じる。

そうすると色んな物語が思い浮かんでくる。

でも、今の私にはそれを文字にすることができない。

小説が嫌いになったわけではない。

ただ、書こうとするとフラッシュバックしてしまい、手が震えて書くことができなくなってしまった。

何度も何度も挑戦した。

なぜなら、小説を書くことは私そのものであり、私が生きる全てだったから・・・・・・。

過去に思いを馳せながら目的もなく歩いていると、どこからか歌声と楽器の演奏が聴こえてきた。

バンドの路上ライブだろうか・・・・・・。

いつもなら行かない道なのに、何故かそのライブに興味が湧いた。

もっとちゃんと、もっと近くで見なくちゃ!そう感じた私は、音のする方へと歩みを進めた。

音に近付くに連れ、私の気持ちは逸った。

何この感じ・・・・・・。

なんだろう?

ワクワク?ドキドキ?

何かを見て聞いて、こんな風に興奮するのはかなり久しぶりだった。

私は我を忘れ、無我夢中でそのバンドの前に立っていた。