黒羽根君と話してから、もう1ヶ月程経つだろうか。あれから、黒羽根君とは話すことなく、時間は過ぎていった。そもそも、黒羽根君の事はもう忘れていた。そんなことを考えていた日の放課後…

2組の前がザワザワし始めた。花ちゃんは部活に行ってしまうので、帰りはいつも1人だ。私は特に興味のある部活がなかったので、部活には入っていない。

「白星さんいる?」

「瑠々、呼ばれてるぞ」

私の唯一の男友達『水野 春澄(みずの はると)』こと春澄が黒羽根君に呼ばれていることを教えてくれた。

「春澄ありがと」

「おう」

私は放課後の教室から出て、黒羽根君の元に向かう。

「すみません。遅くなりました」

「大丈夫」

「久しぶりですね。今日はどうしたんです
か?」

「白星さんとデート行きたくて」

「はい?」

「今日、放課後空いてる?」

「空いてますけど…」

「じゃあ、ちょっとだけ付き合ってくれ
る?」

「嫌です」

「空いてるならいいじゃん」

「私は家でゆっくりしたいです」

「じゃあ俺の家来ればいいじゃん」

「それは無理です」

「冗談。映画でも行こうよ」

「絶対行かないとダメですか?」

「まぁ俺としては来て欲しいよね」

「…」

「無理にとは言わないけど」

「今日だけ行きます」

「めっちゃ嬉しい」

「黒羽根君は部活ないんですか?」

「俺、部活入ってない」

「そうなんですね。そこも奇遇ですね」

「俺たち意外と共通点多いね」

「そうですね」

黒羽根君の事は苦手だけど、黒羽根君の笑顔はずるいと思う。女子が惹かれる理由も分からないことも無い。でも、最初に抱いた黒羽根君への嫌悪感は抜けない。だからこそ、遊びに行ったら苦手意識は無くなるかなと思ったからだ。できれば、たくさんの人と仲良く出来ればいいなと思うのが、私の本心。ただ、黒羽根君が恋愛対象かと言われたらよく分からない。なんせ、恋をしたことがないから。

「じゃあ行こっか」

「はい!」

私達は学校を出て、近くの映画館に向かう。

「なんで私を誘うんですか?」

「この前も言ったけど、好きだから」

「黒羽根君のいうことは信じられません」

「俺こう見えても一途なんだけど」

「そうは見えません」

「一途って思ってもらえるまで俺頑張るか
ら」

「それはどうも…」

「ねぇ、敬語はやめない?」

「敬語ですか?」

「俺たち、同い年だし」

「そうですね」

「今日から敬語禁止」

「分かりました」

「もう敬語使ってるよ?」

「もぉ!!」

「それ怒ってるつもりかもしれないけど、煽
ってるようにしか思わないから」

「///」

不覚にも照れてしまった。自然と少しだけ打ち解けたような気がした。

「俺の前でだけ照れてろよ」

「黒羽根君としか遊びに行ったことないよ」

恋をしたことがないのに比例してか、男子とは遊んだことがない。確か、小学校中学年から男子とは遊ばなくなったな。だから、こうやって黒羽根君と遊んでることが不思議。唯一の男友達春澄とも遊びに行ったことは無い。

「じゃあ俺が初めて?」

「うん」

「嬉しい。俺も白星さんだけだよ」

少しは黒羽根君の事信じてもいいのかな?一途って言葉。もし、本当に黒羽根君が私の事を好いていてくれるのなら、私も黒羽根君の事恋愛対象で見てみてもいいのかなぁなんて。今日のデート?がそのきっかけになればいいな。

「白星さん、敬語だけじゃなくてこの呼び方
も変えない?」

「呼び方?」

「なんか名字呼びって距離感ある」

「確かに」

「瑠々って呼んでもいい?」

「いいよ!」

「俺のことは瑠衣って呼んで」

「分かった!」

「そういえば、俺たち名前の感じも同じ文字
入ってんね」

「確かにそう言われるとそうだね」

「今初めてこの名前で良かったって思えた」

「瑠衣って名前かっこいいと思うけどね!」

「瑠々に言われたら嬉しい」

「それなら良かった」

「今日だけでこんなに打ち解けられると思わ
なかった」

「私自身が1番びっくりしてる」

「あんなに俺のこと苦手だったのに」

「今もまだ苦手意識が消えたわけじゃないけ
ど」

「こうやって少しずつ俺になれてくれたらい
い」

今日の瑠衣くんはなぜか心地がいい。そう思った。