『宇田さん、帰ってから乙女ゲームした?』

「あ、スバルくんのこと忘れてた」

『なんだ、宇田さんもはしゃいでるじゃん』


そうなの、わたし、はしゃいでるの。脚がしびれてきたから正座はとっくに崩しちゃったけど、声がちょっと余所行きモードなの。

気付いてほしいのか、ほしくないのか分からない。ねえ、さっきからずっと胸がきゅんきゅん鳴いてるんだけど、電波の奥でも聞こえてる?


「一条くん、パズルしてないの?」

『パズルの時間ももったいないくらい、宇田さんの声がききたいからね』


ただ、あなたの声が聞きたくて。それだけで趣味も勉強も後回しになっちゃうくらい、強力な魔法。

魔法にかけられたわたしたちは、それが解ける日が来るまでずっと、ふたり、恋の中を泳いでる。きらきらが永遠に続くのかわからないけど、続けばいいなあと思う。

安っぽいこと言ってる自覚はあるけど、恋したら知能指数はほぼゼロなのでしかたない。



一条くんは、きっと明日も一条くんだ。美少年だけどへんなひとだし、あしたもきっと偏食で理屈っぽいし、計算が好きなくせにじつはロマンチスト。
 

わたしたちが恋人になったからって、世界はそんなに大きく変わらない。もとから仲は良かったし、ふたりで帰ったりすることもあった。これからもわたしは日光がだめだし、身体と数字がたいへん弱い。


だけど、もう、昨日までのわたしたちじゃない。だって、それでも、恋なのだ。