それでも、恋


隣の美少年を盗み見ると、姿勢を正しくまじめに板書していた。想像通りだ。

理系教科の授業中、一条くんはわかりやすく輝いている。数学の問題を解く時間とか、生き生きしてる。化学の実験の日なんて。普段、指まで隠すように着ているセーターを腕まくりとかしちゃって、もうかわいい。


「問1、答えを黒板に書いてくれる人〜」


高梨先生が復習問題の回答者を募集した。だけど、けっこう難問だったので自信持って挙手できる人がいない。

みんなが先生から目を逸らすのに、一条くんだけはしっかり背筋を伸ばして座っている。なんなら、自分から目を合わせにいってるような気がする。

自信あるなら、手、挙げればいいのに。

解が空欄のエックスとワイには申し訳ないけど、わたしは問題を解く気すら起きなかった。数学のほうから嫌われている自覚があるし、こっちもそんなに好きじゃない。高梨先生がいるからなんとかセーフ。

そんなわけだから、さっさと一条くんに黒板いってほしい。何を恥じらっているんだか。

そうやって、あなたのしょうもないプライドと人見知りのせいで。


「じゃあ宇田さん、前に来て解いてください」


ほーら、わたしが犠牲になるんだからね。


恥を晒すのを覚悟して席を立ち、そのついでに思いっきり、ぎろりと美少年を睨みつけてやった。これは半ば八つ当たりだ。