シュガードーナツがふたつ。趣味が合うみたいで、そんなことも照れてくさい。
基本的にお喋りって印象はないのだけど、一条くんは気まずい沈黙をつくらない人だ。ふたつめのドーナツを真剣に選びながらも、「宇田さんも好きなの食べなよ」と促してくれる。いつも、ほんとうの意味でわたしを置き去りにすることはない。
認めたくないけど、一条くんは気配りのひとだ。レジに進むとトレイを店員さんに渡して、一条くんは勝手にコーヒーをふたつ注文した。
それを聞いた店員さんがコーヒーを淹れてくれるのを待つあいだ、わたしが話しかける。
「なに注文するか聞かないの」
「うん、ドーナツにはコーヒーが合う」
「それは、みんなそれぞれじゃん」
「ドーナツのときにコーヒー以外を飲む人とは俺が合わないので、宇田さんにはコーヒーを飲んでもらいます」
なんだそれ。シュガードーナツにオレンジジュース飲んだっていいじゃんか。めちゃくちゃ甘いけど。ていうか、なんだそれ。一条くんとわたし、合うのが前提みたいに聞こえるじゃんか。
うまく返せる言葉を探していると、一条くんのほうが「だって、ほら、」と続けてきた。
「コーヒー、きらいじゃないでしょ?」
振り返って見せるのは、確信的な微笑。いたずらっ子みたいな無邪気さと、淡い色気を孕んでいて、もう、ずるい。
それに、ほら。わたし、珈琲、すきだもん。
そんなやり取りをしていたら、せっかく借りを返す約束だったのに、また、一条くんがお会計をしてくれた。ここって、ドーナツ屋さんのなかではちょっとお高めのほうなのに。
「あの、ありがとうございます」
「うむ、よく味わって食べなさい」
ふざけた返事をする一条くんは、わたしのあたまを偉そうにぽんぽんとやさしく叩いた。弾んだてのひらが暖かくて、心臓がきゅんと締め付けられたのは気のせいだと思いたい。