感情が、見えない糸で操られているみたいだ。だって、その次の瞬間には、あっさりと次の電車に乗ろうとしている。もう、時刻が光る掲示板を気にしている。
乗り遅れちゃえばいいのに。わたしに恨みっぽく目を細めて見られていることに、気づいたのだろうか。
一条くんはこちらの機嫌を取るように「そんなかわいい顔して、何が言いたいの」とか口遊む。
べつに、言いたいことはないけどさ。帰りの電車のあなたにも、わたしのことばっかり考えてもらわなきゃ困る。こっちばっかり振り回されるのでは、不公平だ。
「やめてよ、宇田さんって、俺の弱みのひとつなんだから」
「え、」
「宇田さんに話しかけられたら、だいすきなパズルも途中で放置しちゃうしね」
———自分の弱みは、とっておきの切り札にしたいので。
ああ、もう。こんなところで、いきなりハートのエースを見せてくるなんて。切り札は、くやしいくらいに成功している。
一条くんは、きょうも、ずるい。