バス停から駅までの道は、ほんのちょっとだ。どちらともなく歩き始めてしまえば、あっという間に着いてしまう。
赤信号で、立ち止まる。危険な夜から身を守る、車のライトがぶつかって光が強くなる。
眩しくて、目を瞑った。目を瞑っているあいだだけ、時が止まればいいのに。そんなふざけたことを思うくらいには、この、くすぐったい時間を大切に思っている。
教室でのわたしたちの距離よりも、明らかに近い。それを意識しないようにと、ずっと意識していた。
呼吸の音さえ聞こえてしまいそうで、上手に息が吸えない。
わたしだけがこんなにどきどきして、「映画館に入ったら、まず非常口を確認しよう」と訳の分からないことを平然と喋っている一条くんが憎たらしい。
勝手に、確認してろ。ばか。
彼氏に立候補したのは、折口くん。デートに誘ってきたのは、一条くん。
こんなの、きいてない。スバルくんと築いてきたラブは、誰も傷付けることがない。やさしいだけの、空想だった。
だから、知らなかった。まっすぐに伸びた感情のやじるしは、その向かう先によって、届いたり、途中で折れたりしないといけないだなんて。