それでも、恋


どちらともなく、隣に並んで歩き出す。ごめん、と謝ると、あやまらないで、と返ってきた。


「お礼、ちょうだいよ」

「なにがほしいの」

「映画、みよ」

「一条くん、何かみたいやつあるの」


ふたりとも駅に向かって顔を向けたまま、寒さに耐えるためにポケットに手を突っ込んで歩く。


静かに、流れていく会話。真ん中をわざと外すような、浅いところをなぞる会話。

それを終わらせて、中心を射止めてきたのは彼のほうだった。


「ねえ、気づいてる?」


歩道の真ん中でいきなり一条くんが立ち止まるから、わたしもつられて立ち止まる。続きを促すように目を合わせれば、彼は薄いくちびるを開いて。

きらりと光る、ときめきを紡いだ。


「一条くんは、いま、宇田さんをデートにお誘いしてるのですよ」


ようやく、わたしのところにも訪れたと思ったら、ものすごい速度で、恋は降り注いでくるらしい。