「宇田さんんんん、助けてよおおお」

「いや、わたしは無理でしょ」

「なんだかんだ頭いいじゃん」

「まあね、折口くんと比べたら秀才だよ」


泣きついてくる折口くんとわたしの平和なやり取りを、高梨先生が優しい微笑みで見守っている。放課後の校舎に響くのは、練習中の吹奏楽部の音色。外から届く運動部の掛け声。廊下を歩く女の子たちの笑い声。

この穏やかに流れる時間は永遠に続くみたいに思われるけど、きっと、いや、確実に短命だ。


大切にしたい。ただでさえ学校を休みがちなわたしは、この時間がみんなよりも少ない。


かしゃり。わたしは、スマートフォンを取り出して、写真を撮った。

音に気づいた一条くんが、嫌そうに美しい顔を顰めるので、もう1枚撮った。画面のなかで静止する一条くんは、かわいい。

外の世界で動く一条くんは、「いきなりやめてよ、変な顔してない?」と女の子みたいなことを気にしていた。やっぱりかわいい。


「高梨先生のことも撮ってもいいですか?」

「その問題が解けたらいいですよ」


それから、がんばって勉強して、その隙間合間に写真を撮った。わたしのことも、撮ってくれた。

そろそろ帰ろうかなってときに用事を終えたこっちゃんが合流して、彼女は数学の教科書も開かずに写真会にだけ参加した。