正面の美少年は、携帯している除菌シートでスマホの画面を拭いている。彼が度の過ぎた綺麗好きなのは周知の事実なので、もう何も驚かない。
「一条くんって、キスとかできるの?」
〝無菌空間で息したい〟で定評のある彼に、ふと思い付いたようにこっちゃんがたずねた。
彼女は、基本的に思ったことをすぐに口に出す。〝言っていいこと・わるいこと〟を処理するフィルターが無いわけじゃない。目が粗いのだ。
「え、なに突然」
「えええ!こっちゃん、狙ってんの?!」
わざとらしくこっちゃんから怯えたように距離をとる一条くんと、なんとなく馬鹿が溢れている折口くん。こっちゃんは、大きい目玉をぐるんと回してすかさず反論した。
「いや、わたしがキス迫ってるみたいに言うのやめてよ」
「あ、ちがうんだ?」
「自意識過剰だよ」
「それは大変失礼しました」
こっちゃんと一条くんの会話が、リズムよく続いていく。この優しい時間が、ずっと続けばいいのにと願わずにはいられない。
「で、キスできるの?菌がうつるかもじゃん」
こっちゃんが再び投げた質問に、ぱちくりと瞬きしたあと、一条くんはふつうに答えた。
「菌が移ってもいいくらい好きな子となら、したいかなあ」



