「ふたりでなに見てたの?」
「すげえ面白い動画!面白すぎて笑っちゃう動画!ふつうの動画なんだけど、死ぬほど面白いんだよな」
「うん、中身が何にも伝わらない」
一条くんと折口くんって、いつもこんなかんじだ。その噛み合わないやりとりを眺めながら、わたしも折口くんの隣に腰をおろす。
一条くんはホワイトモカのカップを、さりげなくわたしの前に置いてくれた。彼の動作はいつも静かで、それがちょっと大人びている。
「ありがとう」
ご馳走してもらったことも含めて、お礼を告げる。すると正面に座る美少年は、口角をゆるりと持ち上げて、薄く微笑んだ。
「いーえ」
ほろ苦い色をした瞳が、あまくなる。学校とはまた違う、オレンジがかったお洒落な灯りに照らされた一条くんは、なんだかさらにかっこいい。
普段は隣の席に座っている美しい人と、正面から向き合うのは刺激が強すぎるのかもしれない。かっこいいのが通常運転の人なのに、今はそれがなぜだか照れ臭く感じて、それを隠すようにふざけてみたりする。
「器大きいね、めずらしい」
「一条家の方角に足向けて眠らないように、気を付けてね」
「やっぱ小さいね」
だから、そうやって、いつもみたいに、そっちもふざけてくれたらいいのに。
「宇田さんは器の大きい男がすき?」
「みんな、そうだと思うけど」
すぐ横で折口くんとこっちゃんが、さっきの面白い動画の話をしているのが遠くに感じた。
一条くんとお喋りするときのわたしは、彼にハートを持っていかれてしまうことが多い。
そして、うっかり、まるでふたりきりの甘ったるい空間に落とされたみたいに、ふわふわと錯覚するんだ。
決して大きく張らないはずの透明な声が、その甘い空間ではよく響く。
「みんなじゃなくて、俺は、宇田さんのことが気になるんだけど」
一条くんは、まるで何でもないことみたいに、わたしを惑わせることを平然と口にする。



