そんなことを考えたけど口に出すこともできず、じぶんの分とわたしの分、ふたつのカップを受け取って歩き出す一条くんの隣に並んで声をかけた。
「えっと、あの、お金、」
「ここはいいよ、あとで何かで返して」
4人掛けのテーブル席を陣取っていた折口くんたちが、スマホの画面をふたりで覗き込みながら爆笑しているのが目に入る。
そこに向かって歩く一条くんは、いつも通り淡々と話す。あまり感情が滲んでいないけれど、少なくとも不機嫌ではなさそうだ。
「なにかで?!」
「じゃあこんど、映画とポップコーンとコーラおごって」
「そんなに?!」
わたしの前を歩く一条くんが、「わかった、もういいよ」と呆れたような声を出した。
そして、先に着く一歩手前で立ち止まるから、わたしも続いて立ち止まる。それから彼は半分だけ首を回して、すぐ後ろに立っていたわたしに囁くように、あまいことばを吐いた。
「何も奢らなくていいから、いっしょに映画みにいこうよ」
糖分がハートにまで巡ってきた。ああ、もう、なんだか胸焼けしそうだ。
「ふたりで、ね」
その返事を求めることなく、彼は何事もなかったかのようにこっちゃんの隣の席に着いた。そのまま、やんわりと自然に楽しげな会話に滑り込んでいく。



