スタイリッシュなメニュー表に穴を開ける勢いで見つめている美少年に、わたしは声をかけた。
「そんなに悩む?」
「いや、飲み物は決まった」
「じゃあ、何に悩んでるの」
まだ決められていないわたしがメニュー表を奪い取りたずねると、彼は綺麗な手を自分の顎にかけて、考え込むように「うーん」と唸った。はい、かわいい。そして、答える。
「せっかくの宇田さんへの貸しなのに、ドリンク一杯で使ってしまってよろしいものか悩んでるの」
うん、よろしいんじゃないかと思うけど。これより金額が上がると、ちょっと、わたしのお小遣いでは厳しいし。
うちって実は、けっこう裕福な家庭なのだけど、わたしがもらえるお小遣いはごく平均的なものだ。必要なとき(たとえば、友だちの誕生日プレゼントを買いたいとか)に、おねだりすれば追加で貰えるシステム。
ほら、うちの親って、子どもがお金を持ちすぎると非行に走ると思ってるタイプだから。そんなわけで、お父さんに「隣の席の美少年に借りがあるから、お金ちょうだい」とは言えないし。
そう思ったけど、自分が注文する番になった一条くんは、とくに何も言わずひとりでレジに進んでしまった。



