それでも、恋


「あのさあ、なんでわかんないの?」


ダメ生徒のわたしに、ちょっと苛ついたご様子の一条くん。そりゃあそうだ、この問題にもおとといにも教わった気がしてくる。

一条くんは決して教えるのが下手ではないので、これはわたしに非がありまくる。だからすぐさま、ごめんって謝ろうとしたのに。


「たしかに俺は優しいけどね、」


自分勝手な一条くんに遮られた。自分で言うのかよ。ていうかそんな、言うほど優しくはないし。なんか知らないけど、いつも怒ってるし。

そう思ったけど、言葉にできなかった。

何気なく見てしまった紅茶色の瞳には、あまい熱が込められていて。


「宇田さんだから、とくべつ優しくしてるんだよ」


ほら、やっぱり、瞳なんて見るものじゃない。わたしは慌てて、指先に視線を戻した。

戻したけど、もう遅い。心臓が大きな音を鳴らすのは止められなかった。


———誰にでも優しい人が好きです。そういう素敵な人に自分だけとくべつ優しくされたら、男女問わずぜったい好きになっちゃいますね。


そんなの、一条くんだけじゃない。しかも、それを自覚したうえでやってるのだとしたら、なおさら、たちが悪い。


いいの?そんな、あまいこと言っちゃって。もう、知らないよ?
わたしだって、好きになっちゃうんだからね。