それでも、恋



ミステリアスな秀才の美少年は、どうしたってみんなが話しかけにくい。でも、話せるチャンスさえあれば、誰でもすぐに打ち解けられる。一条くんは、ふつうの男子高校生だ。

だから、わたしだけが、あなたに近づけたと勘違いしちゃうんだ。


物理の先生が来るの、遅れるらしい。学級委員長がみんなに伝言していた。ラッキー、みんなが小さく歓喜する。


そんなわけでせっかく延長された休み時間を使ってまで、一条くんが計算の仕方を教えてくださっているというのに。

わたしはまた、数式を編み出していく美しい指先に飽きることなく見惚れている。


薄い色した瞳を見たら、吸い込まれてしまいそうで。
瑞々しいくちびるを見たら、蕩けてしまいそうで。

集中できないまま、ほっそりした指先だけに視線を送ってしまうこの状態で、物理なんて理解できるはずもない。