授業準備をしている隣の美少年が、次の会話を投げてくれた。
「どうせ次の物理の宿題もやってないんでしょ」
「やろうとしたけど解けなかったの」
「解けない問題を解けるように復習するのが、宿題なんだよ」
放課後にふたりで遊ぶほど親しくはないけれど、席に着いているとき、だらだらと会話が続く程度には仲良くなったみたいだ。
純粋な嬉しさのなかには、ちょっとした優越感が含まれている。近寄り難い美少年と親しく話せる自分は、なんだかちょっとかわいく見えるような気がしてしまうので、よくない。
わたしは、一条くんみたいに強くないから、他の人からどう見えるとか、やっぱり少しは気にしちゃう。
それに、自分の持っているちからよりすこしでも良く見られたいわたしは、ほんの2センチ背伸びをしている。
そんなわたしの安っぽい思考回路に、気付いているのかいないのか。彼は自分の整った文字が並んだノートを眺めながら、解き方をイチから教えようとしてくれる。
さすがに、残りの2分でそれは無理だってば。わたしと計算問題って相性最悪なの、よく知ってるじゃん。
「一条くんって優しいよね」
「ふうん?」
「そういうところ、ずるいなーって思うよ」
「褒めてくれても、借りを帳消しにはしてあげないよ」
ずるいよ。そんな、余裕のある顔でわたしに優しくしないでよ。当たり前みたいに、力学の計算なんて教えなくていいよ。どうせわかんないし。



