〝てか、お礼って何ほしいの〟
そうたずねた付箋に、一条くんは返事を書かず。自分のノートの開かれたページ、その左上端っこにすみれ色の小さな長方形を貼りつけた。
右手でノートをおさえて、左手で付箋を撫でる。一条くんは、左利き。その美しい両手があまりにも丁寧だったので、またもうっかり見惚れてしまった。
それから、こちらを見て、まっすぐに伸ばした人差し指をくちびるに当てて。
ひみつ、のポーズ。
その仕草には、持ち前のありあまる透明感に加えて、彼特有の神秘的な雰囲気が含まれている。
ほんのり伏せた睫毛がひんやりと色っぽい。上から見下すようにちょっとだけ微笑んでいるのが、もう、ずるい。
その秘密ポーズが、お礼に何が欲しいかっていうわたしの質問に対する答えだと理解するのに、数秒を要した。
あざとい一条くんには、女の子のハートの風船をぱんぱんに膨らませた後、ぱちんと針で破裂させるくらいの破壊力がある。
ていうか!ひみつってなんだし!ジュースおごって〜とかでしょどうせ!わざわざ秘密にしないでよかわいいなあもう!
「エックスを求めるには、」
高梨先生のイケメンボイスが遠くに聞こえる。心の中をフィーバーさせているわたしを置き去りに、隣の美少年は姿勢正しく数学の板書に戻っていた。



