撮影もそろそろ終わりに近付いた頃の夜。

撮影現場の山に台風がやって来た。


渚はホテルの部屋で、強風が吹き荒れる窓の外を眺めながら、明日の撮影が中止になるかどうかを考えていた。


「もうすぐ終わりだし……撮影の延長も嫌だけど、撮影に行くのも嫌だなぁ……」


そんな風に呟いていた頃、紫音と舞が廊下で話していた。

嫌悪な空気が二人の間に漂っている状況で、声を荒げる紫音。


「こんな時間に渚の靴を持って、どこに行ってたんだ?
持ってた靴はどこにやったんだっ!!」


紫音が怒っていても、舞は微動だにしない。


「さぁね?それより私の部屋で今からお茶でもどう?
多少夜更かししたって、明日の撮影は休みでしょ?」


すると紫音はいつになく怒りを露にした様子で、舞の背後にある壁を手のひらで叩いた。


「えっ……壁ドン?……紫音なら私に告白してもいいけど?」


「違うっ!!渚の靴をどこへやったか教えろよ?」


「靴なんて学校の横の川に捨てちゃった。もう現場に来れないようにね?
あんな浮気者の事なんて、紫音もどうでもいいでしょ?」


靴がなくなったくらいで、撮影現場に来れないなんて事はない。

ただ、現場に来るな。という意思表示で、靴が無くなるいじめ方は、精神的に追い詰めるのに、充分過ぎるもの。


舞の話に紫音の怒っていた勢いは、弱まってしまう。

紫音が渚に対して、冷たい態度を取ったのは事実なのだから。


「どうでもいいなんて、思ったことねぇよ」


「ふーん。あの子がぼっちになっても放っておいて、よくそんな事を言えるね?」


「そ……それは……違うんだ……」


「何が違うの?必死にすがってきたあの子を振り払ったくせに」


そんな話をホテルの壁に隠れて聞いていた涼は、すぐに走り出した。


渚の靴を探すために、学校の近くの川へ向かって。