撮影が終わった夜の学校で、共演者やスタッフ達が撤収している中、渚が紫音の元へ向かった。


渚は何も気にしていない。とばかりに、笑顔を向ける。


「急なアドリブでビックリしました。でもSっぽい紫音もカッコよかったですっ!!」


ニコニコの渚に対して、紫音はチラッと見ただけで背を向けると、台本を鞄に詰めながら、冷たい態度を見せる。


「本当にごめん。俺、どうかしてた」


心ここにあらずといった雰囲気の紫音がそう言うと、鞄を持ってその場から立ち去ろうとした。

慌てた渚は走って回り込み、しっかりと紫音の目を見つめて話す。


「あ……あの……舞さんに何か言われたんですか?
それとも……私がキスしなかったから怒ってるんですか……?」


普段の渚なら、紫音の背中を見てクヨクヨと悩むだけだが、今日は勇気を出した。


涼に愛想を尽かされ、女子から嫌われた渚には、もう紫音だけが心の拠り所なのだから。

しかし、紫音は渚を避けるように歩きながら言う。


「別にそんなんじゃないよ……」


渚は冷たい態度の紫音の袖を掴んで、足を止めさせた。


「私が何か嫌な事をしたなら謝りますっ!!私には、もう紫音しかいないんですっ!!」


渚の必死な願いも、紫音の心にに突き刺さらない。


「涼がいるだろ……」


紫音はそのまま渚を置いて、ホテルへと向かって行った。