3……2……1……
監督の秒読みが始まり、二人で一緒に帰るシーンの撮影が始まった。
紫音と渚が手を繋いで、楽しそうに話しながら、校門の前を通りがかる。
そこに涼が待ち構えていた。
「二人って付き合うことになったのか?」
少し怒り気味の涼をチラッと見た渚は、気まずそうな表情で、視線を落とす。
「えっ……うん……」
すると紫音が渚の肩に手を回して、勝ち誇ったように笑いながら、涼に話した。
「俺達付き合うことにしたから、幸せになれるように応援してくれよな?」
全て演技である。
三人ともわかっているつもりだが、気持ちが入って迫真の演技になっていた。
「渚は俺の事が好きだったんじゃないのかよっ!?
これまで一緒に過ごしてきたのに、イケメンが現れたら、すぐにそっちに行っちゃうのかよっ!!」
少し溜めを作った渚は、1度歯を食い縛ってから、覚悟を決めたように言い放つ。
「涼が告白してくれなかったんでしょっ!!」
渚の勢いに押され気味の涼は、渚の目の前まで歩いて、静かなトーンで言った。
「俺の気持ちに気付いてなかったのか?」
「なんとなく気付いてたよ?
でも、好きなら好きって言ってくれないと、わかんないよっ!!!
私だって涼が告白してくれるの待ってたんだよっ!!」
「じゃあ俺と紫音のどっちが好きなんだ?」
「………もういいっ!!」
泣きながら走り去っていく渚を、追いかけていく紫音。
カットーーーッ!!
「いやぁ。なかなかいい演技だったよ?」
監督は、三人の微妙な空気を知る由もなく、拍手して鬼気迫る演技を褒め称えていた。