涼が捜査室から出てきて、泣いてる渚と目が合った。


「あっ。待っててくれたんだ?
いやー。何も悪いことしてないのに、警官の話が長くてさぁ?」


悪びれた様子もなく、ヘラヘラしながらやって来た涼に、渚が黙ったまま向かっていく。


パチンッ


警察署の受付のロビーに、乾いた音が響いた。

渚のビンタが飛んだのだ。


「いってーっ!!何するんだよっ?」


「私がどれだけ心配したか、わかってんのっ!?
部活に行きたくないなら、行かなくてもいいっ!!!
将来、何の仕事についたって構わないっ!!!
でも高校くらい卒業しようよっ!!!」


渚の演劇で鍛えた迫力は、相当なもの。

圧倒された涼は、頬を押さえながら、頭を下げた。


「ごめん……」


「私の方こそごめんね?痛かった?」


「別にこれくらい大丈夫。」


渚の愛のムチに心を打たれた涼は、こう言った。


「渚は今日言ってた、映画のオーディション受けるのか?」


「うーん。涼が一緒なら受けるつもりだったけど……」


「じゃあ俺も一緒に受けるよ。
それに、渚の為に高校も卒業するって約束するから」


「私の為に?何かそういうの嬉しいなー。えへへ」


「そっか?」


「うんっ!!じゃあ一緒に学校も、オーディションも頑張ろうね?」


こうして涼は不良グループと縁を切り、春休みから学校にも部活にも通い始めて、オーディションに合格したのだ。


涼は自分が俳優になりたかった訳ではなく、渚の理想とする男に少しでも近付く為に。