紫音様とは、ファンからの呼び名である。

現代に舞い降りたプリンス。
という触れ込みでデビューした経緯から、名付けられたもの。


ニコッと笑みを溢した紫音は、渚の手を包み込むように優しく握ったまま言った。


「良かった。渚ちゃんだったよね?
可愛い服を汚しちゃってごめんね?
あっ!!新しい靴?いいじゃ~ん」


紫音は渚の事を、オーディションの時にチラッと見た程度だが、配役が決まれば、名前を覚えるのはプロとして当然の事。


嬉しさのあまり天にも昇る気持ちの渚は、何も答えられない程、頭の中で絶叫していた。


紫音様が私の名前を呼んでくれたよーーーっ!!


服も褒めてくれたし、新しい靴にも気付いてくれたー。


ヤバすぎるーーっ!!


誰かに自慢したいよぉ!!


今日から紫音の彼女役として、撮影に挑むとは到底思えない反応の渚は、挨拶を返した。


「こちらこそよろしくお願いします。私、ずっと紫音様の大ファンだったんです」


渚は紫音を見つめ返して言ったが、すぐに恥ずかしそうに、視線を反らしてしまう。

憧れの紫音様のオーラが眩しくて。

いや、単に憧れの紫音を前にして、緊張していただけ。

なのかもしれない。