しばらくすると、撮影の準備が整った。
3……2……1……
監督の秒読みで、渚の台詞から撮影が始まる。
「紫音様はこっちの生活に、少しは慣れた?」
「うん。少しはね?
町のみんなが、すごく良くしてくれるからね?」
そこへ割って入る涼は、自慢気に話した。
「俺がいいやつだってさ」
他の三人が口々に「ないない」と言って大笑いして盛り上がっていた。
笑いが静まると、舞がお弁当を食べながら話す。
「そう言えば、みんなは誰と花火大会に行くの?
涼?一緒に行かない?」
チラッと渚を見て、複雑そうな表情を浮かべる演技をする涼。
「別にその日は用事ないからいいけど」
「じゃあ決まりね?
すごく楽しみーーーっ!!」
舞がそう言って、嬉しそうに笑った瞬間、渚の顔が苦痛に歪んだ。
「いっ……」
思わず声を上げそうになるのを我慢した渚の手に、激痛が走ったのだ。
舞がにこやかな表情で台詞を言いながら、テーブルの下に隠れている渚の腕を、思いっきりギュッとつねったのだ。
しかしカメラを止めてもらう訳にもいかず、立ち上がればNGを出して、監督に怒られてしまう。
何っ!!
この人っ!!
私が舞さんに何かした!?
渚は心の中で文句を言いながらも、ただ黙って我慢するしかなかった。


