カットーーーーっ!!


監督の声が教室に響いて、OKが出ても、真っ赤な顔の涼と渚は戸惑ったまま、しばらく口を開こうとしなかった。


子供の頃はわからないが、涼が記憶のある中では、初めて渚を抱き締めたのだから、演技が終わっても微妙な空気のまま。


涼はしばらく動けないまま、渚に背を向けて、立ち竦んでいた。


はぁ……


緊張した……


渚とキスをすることになったら……


あんな感じなのかな……?




そんな涼の背後にいる渚も、俯きながら胸に手を当てて、その場から動けない。


涼に抱き締められたら……


なんとなく安心しちゃった……


監督に怒られた時に、涼が抱き締めてくれたら……


嬉しいのに……


今の渚は慣れない環境、監督からの説教、舞とのこれからの仕事。

色んな要素が混ざり合い、緊張の糸が張り詰めていたのだ。

もっと誰かに演技の悩みを聞いてほしい。

でも涼は、意地悪な事を言うので、悩み相談なんてできない。

しかし抱き締められた事で、肩の力が少し抜けたのである。


「涼ありがとうっ!!」


少し恥ずかしそうに笑った渚を見ると、涼は愛しさがこみ上げてきて、照れ臭そうに言った。


「何がだよ~?」


「ううん。なにもないっ!!」


ニコッと笑った渚は、涼に向かって走り出し、背後から抱きついた。


「お返しーーーっ!!」


「うわっ!!もーっ!!どうしたんだよっ!!」


「えへへ。次の撮影に行こっ」


遠い存在の紫音よりも、身近な涼の方が、一緒にいると幸せなのかも知れない。


そんな事を思う渚だった。