一方の渚は、怖くて目を閉じたまま、真っ暗な階段を手探りでゆっくりと、上っていた。


「お化けが出ませんように……
お化けさん……
私を食べても美味しくないですよぉ……」


階段の途中で、手探りしている渚の手が柔らかい人の皮膚のような感触の物に触れた。


「きゃーーーーーーっ!!おばけーーーっ!!」


暗闇の中にいたのは、人気絶頂のアイドルの紫音。

学校に転校する書類を提出するのに、仕事で忙しい紫音は、昼間の先生がいる時間に来れないので、夜に時間を取ってもらって職員室に来ていたのだ。

書類を出し終わった紫音と肝試し中の渚が、階段で出会う。

渚も大ファンであり、学校の女子達も熱を上げる紫音が、この田舎町に来ていて驚くというシーン。


真っ暗な階段にいる紫音は、渚を見下ろしたまま、髪を掻き上げて言った。


「おいおい…。誰がお化けだよ?
こんなイケメンを捕まえて」


「……………………」


渚が目を開けると、紫音が立っているのだが、憧れの紫音を前にして、緊張の方が先立ち、台詞が全部頭の中から飛んでしまった。


カットーーーーーっ!!


「もう一回同じシーンからっ!!」


監督の声が響き、もう一度そこから撮影が始まる。

それから4回、5回と
紫音の顔を触って、悲鳴を上げる。

を繰り返したが、緊張している渚は、台詞が飛んだり、早口になってしまったり、紫音の前だと全く力が発揮できない。


「ごめんなさい……もう一回お願いします……」