竜王様のプレゼント

「うわぁ……すごい。まるで花嫁かお姫様だわ」
 衣擦れの音も珍しくて、姿見の前でくるくるターンしちゃってます。そっか、姿見は、このために用意されてたのね。
 鏡の前でソワソワしている私を満足そうに見ている竜王様。
「よく似合ってる。靴も履いてみろ」
「え? 靴まで?」
 まさかそんなものまで用意されてるとは。私が驚いてる間に、そっとマゼンタが足元に置いたのは、ドレスと同じグレーのグリッターのハイヒール。ヒールの高さに恐る恐る足を入れてみたら、これがサイズぴったりで履き心地も抜群! ……ん?
「竜王様」
「なんだ? 気に入らないのか?」
 私がちょっと低い声になったのに気が付いた竜王様の眉がピクッと動きました。
「いえ、とても素敵なんですが、少し質問が」
「質問? なんだ」
「このドレスも靴も、私にジャストサイズで驚いているんです」
「それはそうだ。ライラのために作ったものだから、合わない方がおかしいだろう」
 ソファーの肘掛に悠然と肘をつき、私を見ている竜王様ですが、問題はそこじゃない。
「私、採寸も何もしたことないんですが?」

 どうやって私のサイズを調べたんですかね?

 じとんと竜王様を見ていると。
「それは、ライラの服と靴を拝借して調べた」
 今、サラッと言いましたけど、『拝借した』ですって? 貸した覚えなんてないわ!
「どこから拝借したんですか?」
「ライラの部屋から。メイドに持って来させた」
 私の部屋から……ということは、共犯はマゼンタ!? 
 パッとマゼンタの方を見ると、しれっと視線を外してワゴンを押して部屋を出て行ってしまいました。うん、黒確定だわ。あとでよ〜くお話ししなくちゃ。
 それよりも。
「あ〜もう! 紛失症かと思って凹んで損した〜!」
 紛失したんじゃなくて、元からなかったんじゃないですか〜。私、全然悪くないじゃないですか〜。ほんとにグータラ癖がひどくなったのかと思ったのに〜!
 私が愕然としているというのに、竜王様は全然悪びれてません。
「しかしライラを採寸すれば、サプライズにはならないだろう?」
「まあ……そうですけど。というか、プレゼントされる体(てい)で話進んじゃってますけど、こんな高価そうなものいただけませんよ!」
「なぜだ? これが余からのバレンタインのお返しだが?」
『ちょっと何言ってるのか分からない』的に小首を傾げるのやめていただけませんか。
 これ、三倍返しどころの騒ぎじゃないです。エビでタイどころかクジラ釣れてます。
「こんな素敵なドレス、下っ端の下っ端の下っ端メイドには着る機会もありません。もったいないです」
 こういうドレスを着るのは主役や招待客であって、会場案内に徹する(本編参照)メイドの着るもんじゃないんです! 会場案内のメイドがこんなん着てたらえらい目立つわ。
 
「余の隣に並ぶのに、メイド服では困るだろう?」
「はいい?」
「ライラは余の妃だからな」
「あっ……」

 確かにプロポーズまがいなことは言われましたけど、『気持ちがついていかない』だの『まだ下っ端メイドが楽しいから仕事したい』だの言って有耶無耶にしてるんですよね。詳しいことはまた別の機会に……というのはおいといて。

 少し都合が悪くなったので、さっきの勢いはしぼんでしまいました。