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彼の子供時代を語るならば、どうしても辛い部分を省くことはできない。


「でもねぇ、お嬢さん」


案の定、目を伏せたジェイダに声を掛ける。


「あんたを連れて来ると言ったロイ坊っちゃんは、少しはしゃいでたよ」


『じゃ、僕お嫁さん拐ってくるから。準備よろしくね、ハナ』


その一言を残して出掛けた彼は、当然のように実行して帰ってきた。


黒髪に黒い瞳。
いつか見たあの子のような、お嫁さんを連れて。

いや、正直なところ、あの日出会った女性は稀な美人だったから、ジェイダを比べるのは可哀想かもしれない。けれども、ふと思うのだ。


(似てる、かねぇ)


頑固そうな瞳も。
弾けるような笑顔も。
それでいて、どこか痛みを理解した優しさも。


「ジェイダ」


呼び掛けると、彼女は吃驚して目を丸めた。


(……ああ、そうか)


だから、だったのだ。
だから、なかなか呼べなくて――……。


「あんたは必ず幸せになりな。坊っちゃんはね、思い詰めると自分のことだけ犠牲にしたがる馬鹿だ。だから、必ず二人で……」


『約束よ……!』


「……はい。約束」


ハナの心の中は読めないはずだが、ジェイダはその単語を口にした。


「私、もう幸せです。でも、ロイもそうじゃないと、幸せなままでいられないから」


(お嬢さん、なんて。もう呼べないね)


やはり、似ている。
だからこそ、選ばれてしまったのか。
けれども、彼女はそれを跳ね返して、彼と二人でいられるのだから。


「絶対、そんなことさせませんから。じゃなきゃ、こんなに頑張ったヴェールが無駄になっちゃう」

「それもそうだ。そんだけ絆創膏だらけだっていうのに、元が取れないね」

「そうですよ!! 」


女どうし、大声で笑う。
果たせなかった約束もあるけれど、また前を向いて。
だってほら、希望だってすぐそこだ。