《ほら、そんなこと考えてないで。前を見ようよ》
頭の中で語りかける声に、びっくりして体を竦めた。
(……っ!? )
驚きのあまり、椅子から転げ落ちるかと思った。
二人に目を戻せば、当然ながら真剣に話し合いが続けられている。
この空気を乱さずに済んだことに、胸を撫で下ろした。
それにしても、今のは……。
(空み……)
《み、……じゃないよ! 夢でもないし、現実、現実!! 》
《ま、一人で座ってたら、余計なこと考えちゃうのも無理はないよね》
(だ……誰!? )
声に出さずに問いかけても、相手は答える気はなさそうだ。
《だからさ。ちょっとだけ、ボクと遊ぼう》
(遊ぶって……何して? )
辺りを見回しても、それらしい姿はどこにもない。
実体がないのだろうか。まさか、幽霊?
《そうだねえ。とりあえず、追いかけっこはどう? 》
そう思うと怖かったが、違った。
その言葉とともに、ひょっこり顔を出したのは――。
(………マロ!? )
子リスの姿が見えたが、彼は否定も肯定もせず。
ただ、クスッと笑い声が聞こえただけ。
《ほらほら。急がないと、ボク逃げちゃうよ? あの見張り、うつらうつらしてる。平和ボケもいいやら、悪いやらね。ともかく、今がチャンス! 》
どこから入ったのだろう。
そんなことを考えていると、マロが急かしてきた。
確かに見張り役はぼんやりしていて、子供が一人逃げてもバレなさそうだ。
本当に、それもどうなのかとは思うが。
(……待って!! )



