「兄さんだって、ただの男だ。感情だってちゃんとある。愛情も、憐れみも。僕に言わせれば、優しすぎるくらいに」
(言わないで)
耳を塞ぎたかった。
あれが愛情でつくられた夜なんて、聞きたくはなかった。
「ならば、貴方が王になればよかったかもしれませんわね」
だから、酷い言葉で被せてしまう。
「どうあっても、僕を悪者にしたいみたいだね。さっきも言ったけど、嫌だ」
だが、ロイは怒らない。
あくまでも表面上は、薄く笑みすら浮かべている。
「――生きなよ、エミリア。辛いだろうけど、ここにいることは堪えがたい苦痛かもしれないけど……」
――兄さんと一緒に。
「君の幸せを、僕が計ることはできないけど。アルと結ばれることは、そんなにも遠いかな」
そうではない。
何故、こちらの幸せを模索する話になっているのだ。
この国とその王の未来。
皆の幸せに、自分は要らないどころか邪魔なだけなのに。
「ずっと黙っていたけどさ。もうこれ以上待てない」
何が言いたい?
確かにここ最近、見張られている感じが強かったが。
「何を躊躇うことがあるの。……二人で幸せになりなよ。エミリアが大事に想う、不器用な男はね」
王妃じゃない、もちろん間者なんかじゃない。
「義務なんかじゃなく、仕方なくでもなく……本心で受け入れてくれるのを待ってたんだ」
――本当は、ずっと。



