『ふうん、そう。もう無理なんだね』
切れた唇を拭いながら、兄に確認する。
『できなくはなくても、したくない。エミリアを大切に思っているから』
『……知っていて、なぜ問う』
相当頭にきたのか、アルフレッドは肩で息をしている。
自分よりも体格のいい彼の拳は、かなりきたが。
『なら、腹を括れば。今の状況じゃ、エミリアの立場は悪くなるばかりだ。彼女が何て言われてると思う? 』
あれほど美しくありながら、どうして王に愛されないのか。
よもや、王には別の想い人がいるのではないか。何だ、そうか。
――寵を得られぬ、仮初めの王妃。
『……っ、しかし』
『エミリアを思うと、そうもいかないのも分かるよ。彼女には辛いことばかりだ。ご家族だって』
ロイには不要とも思える配慮を、ゴールウェイにしている。
それでも恨みは募るだろうし、だからこそエミリアはここにいるのだが。
不器用な優しさを、もう少し明るみにしてもいいではないか。
『この後、すぐに押し倒せとは言わない。でも、そんな雰囲気を少し試してもいいじゃない。ちょっとでも、嫌がられたらやめたら……』
『あいつは嫌がるまい。……だから、だ』
・・・
「兄さんはこう言ったよ」
――嫌がることすらしてくれない。そんな女を、抱けるものか。



