「う……ん……」
風の音がうるさかったのか、撫でる指先がくすぐったのかロイが目を開けた。
「大丈夫? もう少し、眠ってても……」
「大丈夫。あ、でも膝はこのままね。気持ちいいから」
照れて抗議するものの、ジェイダは抵抗しない。
まったく、このカップルは誰もいないと思って――。
「何かさ、言われた気がしたんだ。君を泣かせないように、無茶するなって」
びっくりして、ジェマやロドニーを見遣る。
二人も驚いてはいたが、やがて大して不思議でもないと思い直したように笑っている。
「そこにいるのかな。お父さんもお母さんも、マロも……みんな」
「……きっとね」
そう言った二人の顔が、こちらを向いた。
「だったらいいな」
(ジェイダ、ロイ……)
ここにいるよ。
ずっとずっと、見守っている。
残念ながら、彼らに伝える力はもうない。
泣きそうになって、思わず木々の枝葉を強く揺らした。
「ほら」
「本当ね。だったら……無理しないでね」
困難は待ち受けるどころか、目の前に山積み。
でも――……。
「ん。確かに、ちょっと疲れたな。ここに来て日も浅いしね。だから……」
不覚だ。
こんな甘ったるい、周りなど見えない人間のラブシーンで泣かされそうになるとは。
「補給させて」
いつの間に膝から起き上がったのか、ロイが唇を寄せ。
見るに見かねて、ゴウッと風を吹かせてみた。
《いるって分かってるなら、それくらいにしてよ。これだから人間って奴は》
その口癖も、以前よりは軽く言える。
(見守っていてあげるよ。だって、キミたちを見てると……)
――ボクも幸せ。
【Mallow(キミがいる幸せ)・終】



