うつら、うつら。
意識が薄れていく中で、優しく囁かれた。
ジェマの声だった気もするし、神様の声のようにも聞こえた。
そうは言っても神様がどんな声だったのか、長いこと子リスの姿でいたからか、あまり思い出すことはできないのだけれど。
何か特別な力が働いたのか、大聖霊の力が思いのほか強かったのか。
理由は不明だが、結果として――。
《ゆっくり休ませてもくれないなんて。人使いが荒すぎるよ》
リスの体を保つことはできなかったが、マロとしての自我は残されていた。
「嬉しいくせに」
《ジェマといられるのは嬉しいけどさ。せいぜい邪魔してあげるから覚悟しといてよ、ロドニー》
人間じゃなくてよかった。
もしもひとの形をしていたら、きっと今真っ赤になっているだろうから。
「ふふ。遠くから見守るのも、なかなか楽しいわよ」
悪戯っぽく言うジェマの視線の先には、翡翠の森。
美しい緑の中に、二人はいた。
《幸せ丸出しじゃないか。……よかった》
ジェイダの膝で眠るのは、もちろんロイ。
金色の髪を掬う彼女の目は、少し心配そうだ。
そういえば、ロイの顔に疲労の色が窺える。
これまで抱えてきたことを放り投げて、手放しで喜ぶことはできないのだ。少なくとも、まだ今は。
《無理しすぎは、奥さん泣かせるよ。聞いてる? ロイ》
聞こえるはずはない。
それでもサラサラと葉っぱを揺らす風が、少しでも二人を癒すことができればいい。