・・・


「なーんだ。男の人じゃなかったのね」


つまらないと唇を尖らせるジェイダに苦笑する。


「“ジン”以外の名前で呼ぶ人の話でしょう。それが男だなんて言った覚えはないわよ」


翡翠の森近くの町に赴任することになったロイに付き添い、再会してしばらく。このお姫様は、ずっとそんなことを知りたがっていたらしい。
特段隠していた訳でもないので、早くに訊いてくれて構わなかったのだが。


「でも……素敵なおばあ様ね」

「……ええ」


変わり者などではない。
当たり前の願いをもった、優しいひとだった。


「でもね、それなら…! 」


ガバッと体を起こし、ジェイダが何事か意気込んでいる。


「兄さんなんて、どう!? 」


あまりの近さに仰け反ると、彼女はいきなりそんなことを言った。


「はぁ? 」

「てっきり、ジンには恋人がいると思ってたの。でも、いないなら兄さんとかどうかなって」

「どう、と言われても……レジー殿にも好みがあるでしょう」


女の子とは、自分に親い人どうしをくっつけたがるものなのか。
それにしたって、ジェイダはもうそういう歳でもないはずだが。


(ようやくオトナになったかと思えば、こういうところは相変わらずね)