結婚当初は専業主婦を()いられるものだと思っていた。だけど予想とは違って、結婚相手の彼、八重樫(やえがし)煌明(こうめい)は「好きにすればいい」と、結婚生活にはてんで興味ないと言わんばかりにそのセリフを吐き捨てた。
 億ション、ではない。多分。けれど、彼の所有しているマンションの最上階が私達の新居だった。ワンフロア丸々という広さもあって、買い出し、掃除、洗濯、頼めば送迎もしてくれる専属のハウスキーパーさんがいるため、私の主な役割は、食事の用意と彼の性欲処理だった。
 きっと、初めから、妻としての務めなど期待してはいなかったのだろう。ならばと言葉に甘えて、働かせてもらった。八重樫とも養父母とも、できるだけ関わりの薄そうな会社に就職をした。
 仕事をして、夕飯を共にして、彼の性欲を満たす。
 そうやって、この四年間、求められたことに関してはきちんと役目を果たしてきたつもりだったけれど、さすがに「孫の顔が見たい」「跡取りはまだか」等々、八重樫のご両親にも養父母にも詰められてしまえば、「何故避妊するのですか」と聞きたくなるのが人の(さが)というものだろう。
 無論、避妊具は、避妊のみが目的ではない。病気の感染リスクを防ぐことも(にな)っているから、理由があるのだろうと思っていたのだけれど、昨夜の彼の言葉を聞く限り、やはり避妊が目的だったのだろう。
 子供、必要か?
 この、短い疑問文を、これ以外の言葉に、意味に、翻訳できる人がいるならば、是非ともお願いしたい。