産まれて早々、捨てられ。六歳のときに引き取られたのは、【政略】させるための駒が欲しい中小企業の社長夫婦の家だった。
 裕福な家庭だったけれど、そこに愛情はなかったと思う。習い事は一通りやらされた。嫌だったけれど、引き取られた私に拒否権なんてなかった。学校に通わせてもらって、服だって買ってもらって、旅行も連れていってもらった。愛情はないし、こと教養に関しては厳しかったけれど、育ててもらった恩を仇で返すほど、腐った人間ではない。
 引き取られた当初から、言われていた。どこぞの大企業の御曹司と結婚させるために引き取ったのだと。健康体であることと、見目(みめ)がよかったことが決め手だと、明け透けに告げられた当時の私の心情を理解できる人なんて、そういないだろう。だけどこうして、五体満足で生きていられるのは、引き取ってくれた彼らのおかげだ。だから、高校を卒業したその日に遂行されたお見合いにも、にっこり笑った顔を張り付けて挑んだ。
 相手方は、無愛想で、にこりともしない、終始不機嫌な人だったけれど、断られはしなかったので、とんとん拍子に話が進んで、結婚に至った。当たり前だが、私に拒否権はない。相手方が、同年代ということが唯一の救いだった。
 まぁひとまずこれで、最初の恩は返せたかな。
 次の恩はやっぱり、跡取り、だよね。

「……子供、いらないって、意味だよね、あれは」

 なんて思っていたあの頃の私は、昨夜、死んでしまった。