いけない。このままじゃ、彼女が手間隙をかけて作った料理も、それに費やした彼女の時間や労力も、無駄にしてしまう。

「……すまない……実は、先ほど君が言った、話、というのが気になってしまって……と、いうべきか、その、本当にすまない。食事の途中だが、その話とやらを聞かせてもらってもいいだろうか……気になり過ぎて、その、味が、あまりしないんだ、」

 食事だけに限らず、何かを途中で辞めるのは行儀が悪いとは思ったが、彼女の料理を無駄にしてしまうよりはマシだ。
 箸を置き、茶碗も置き、(から)になった両の手を拳にして膝の上に乗せた。

「……あ、え、と、その、」
「言いにくい、ことか?」

 僕の態度を見て、(なら)うように彼女も箸と茶碗を置いて、両の手をテーブルの下へとおろす。おそらく、己と同じように彼女の美しい手は膝の上に乗せられていることだろう。無論、彼女が美しいのは、手に限ったことではないが。

「す、少しだけ、お待ちください……!」

 見目だけではなく、内面をも美しい彼女を脳内で賛辞していれば、隠しきれないその美しい顔に僅かな困惑の色を混ぜて、彼女は立ち上がった。