声がうんたらで、黙っていた云々(うんぬん)はもう、聞かなくてもいいだろう。
 これ以上は、私の心臓が持ちそうにない。

「煌明さん」
「っ」

 相も変わらず私の手に重ねられたままの彼の手に、さらにもう片方の私の手を重ね置いて、彼の名前を呼んだ。

「包み隠さず言いますね。私、ずっと、今までの生活に、愛はないと思っていました。だって、そうでしょう。愛しあった結果の結婚じゃありませんから……あなたに愛されてるとはもちろん、思っていませんでしたし、私も、あなたを愛してはいませんでした」
「……」
「でも、四年も一緒にいれば、情くらいわきます。あなたを知りたいとも思いました。でも、解らなかった。あなたのことも、あなたへの歩み寄り方も」
「……」
「……私は、あなたが求めるような熱量を持ててはいないかもしれません。あなたが私に向けてくれているような感情を同じだけは持っていないかもしれません。でも、ゼロじゃないんです。少なくとも、こんな風にアパートを借りて、別居しようとするくらいには、あなたへの、拗らせかけてる想いがあります」
「…………え」

 ぽかん、と少しだけ間抜けな表情(かお)のまま固まっている彼を見て、また、きゅうんと胸が疼く。

「……あなたのご両親や養父母に、急かされたのも、ありますけど、」

 するり、彼の手の甲を親指で撫でれば、ぴくり、彼の手が僅かにくすぐったそうな反応を示す。

「単純に、あなたとの子供が欲しいと、産みたいと、私は思ってます、よ……?」

 くてり、いつかのファッション誌で見た【あざと可愛い】なる仕草をしながらその言葉を吐き出した瞬間、テーブルの下、正座をしている彼の膝の上で待機していたもう片方の腕が私へと伸びて、私の肩を掴んだ。