仕事へ行き、夕飯作りにマンションへ行き、アパートに帰宅し、ひとりで眠る。
 そんな生活も明日で二ヶ月目。と、いうところで、それは起きた。

「……え……と、」

 いつものように夕飯を作って、アパートへ帰宅すれば、玄関の前に人影。引っ越したことを職場の人には教えていたし、一度だけ週明けが期限の書類を忘れたからと同僚が届けに来てくれたことがある。だから、また私は期限の迫った書類を忘れたのかと、また届けさせてしまったのかと慌てて駆け寄ったのだけれど、その人影は思い浮かべた人物のものではなかった。

「……こ、うめい、さん……?」

 古いむき出しの蛍光灯に照らされた横顔がはっきりと見えて、思わず足が止まる。
 ほんの数メートル。たったそれだけの距離の先にいるその人の名前をぽつりとこぼせば、玄関扉に向けられていた視線がゆっくりとこちらへと向けられた。

「……どう、か、しましたか……?」

 何故、ここに。
 そう思ったけれど、契約のときに「八重樫さんのところの」と言われたことを思い出して、その疑問はごくりと飲み込む。
 代わりに、何か不都合でも生じたのかと問うも、彼はただ真っ直ぐに私を見据え、それから僅かに眉根を寄せただけだった。