「一葉ちゃん片栗粉入れすぎたんじゃない?」
 美穂は首をかしげながら、スプーンを口に運ぶ。
「そっか入れすぎだったかぁ……」
 カレーはだまになってしまったが、それもまた林間学園の良き思い出。
 食事を終わるとクラスごとに入浴時間があり、その後自由時間になる。この自由時間こそ林間学園のだいご味である。

 部屋でくつろいでいると、ドアがさっと開く。そして、コソコソっと4人の男子が入ってきて、すっとドアを閉める。
「先生に見つかってないよね?」
 美穂は声を潜める。
「もちろん。ばれてないよ」
 お調子者の光希君が得意げにしている。
「待ってましたぁ」
 三咲たちも男子4人組を迎え入れる。

 もちろん、自由時間中といえどもほかの部屋に入ってはいけない。男子と女子が一緒の部屋にいるなんてもってのほかである。
 しかし、美穂は光希君たちと事前に侵入の打ち合わせをしておいた。
 男子たちは、先生たちの目をかいくぐって女子の部屋に入ってきたのである。

 林間学園ということでテンションが上がっているのに加え、男女が同じ空間でいるということに場の空気は異様な盛り上がりを見せている。
「トランプ持ってるんだけど、ババ抜きやらない?」
 美穂が提案する。正直ババ抜きでも七ならべでも、ゲームの内容なんてどうでもよい。クラスメートと同じ空間で同じ時間を過ごすことに意味があるのだ。
 学校で毎日のように顔を合わして会話するクラスメイトなのに、林間学園の部屋で一緒にいるだけでなぜか気分が高揚する。

「光希君はどういう子がタイプなの?」
 
「えっ!なっ何でそんなこと、き、聞くんですか?」
 顔を赤らめ、視線があちこちにせわしなく動く。
「おい、女子に話しかけられたからってドキドキしてんのかよ」
 泰典に茶化される。
 4人の中では一番女子に慣れていない様子の光希は、耳まで赤くしてどぎまぎしている。
「きゅ、急に聞かれたからびっくりしただけだよ」
 普段男子同士で遊んでいるときの自信ありげな表情とは対照的に、もじもじとカードに視線を送っている。
「優しい人がタイプだよ」
 何とか尋問を逃れたくて用意したような答えだ。

「この4人の中だったら、だれがタイプ?」
 美穂の顔は、獲物をじわじわと追い詰めるような嗜虐的な表情をしている。
「えっ!誰かなんて決められないよぉ」
「せっかくだから決めてあげようぜぇ」
 治樹があおる。
「か、一葉ちゃん」
 フゥー マジーー 一葉ちゃんに告っちゃえ
 男子3人が一斉にあおる。
「じゃあ泰典は誰が好きなんだよぉ」
 光希は何とか矛先を変えるため、泰典に矛先を向ける。

 いきなり自分に向けられた泰典は、思わず美穂の方を見てしまう。目が合ってしまい、お互い恥ずかしいような気まずいような空気が流れた。