久須栗小5年2組のくすぐり物語


「ねえ。ちょっとアルパカ見に行かない……」
 光希君が一人になったタイミングを見計らって声をかける。
 入念にシミュレーションしていたが、いざとなると緊張してしまう。
「うん。いいけど……一葉さん達と一緒じゃなくていいの?」
 勘が鈍すぎ。目的はアルパカじゃなくて光希君なのだ。

「いいの。大丈夫だから」
 光希君の手を引いて、アルパカの小屋に向かう。
 自由時間はまだたっぷりあるのだが、緊張して焦ってしまう。

「羊ってなんで群れるんだろうね?牛とか馬はたいてい一人で行動しているのに」
「何でだろうね……」
 普段なら興味を抱くだろうが、今はそれどころではない。
 私の心臓は今にも爆発しそうなほどドキドキしているのに、光希君はどうして平然としていられるのか。
 光希君はこれから告白されることなど知らないわけで、草原で草を食んでいる羊や馬に興味を向けるのは当たり前のことである。
「美穂さんどうしたの?なんか様子がおかしいよ」
「そ、そんなこと……」
 ごまかすのは無理だろう。こうなったら勢いに任せていってしまおう。

「光希君!なんでここに呼んだかわかってる?」
「えっ、アルパカを見るためでしょ?」
 とことん的外れな答えである。
 いい加減気付いてほしい。
 気づかれたら気づかれたでやりづらいのだが……

「違う!アルパカなんてどうでもいい!!光希君に告白するために二人きりになったんだよ!!!」
 言ってしまって後悔した。
 これじゃあムードのかけらもない。
 シミュレーションとはあまりにかけ離れた状況に、ただただ頭の中が混乱していて、この後どうつなげばよいか完全に見失ってしまった。