「おはよう。ねぇ、おはようってば」



スタスタと歩く通学路。そして、後ろからついてく神崎渚。

昨日は混乱してセンチメンタルな状態に陥ってしまったけれど、今は鬱陶しいことこの上ない。


ちらりと顔を盗み見る。にこりと笑いかけられて、慌てて目を逸らす。


見えたのはたった一瞬だったけれど、ばっちりと見えてしまった。

切れ長の中に愛嬌が滲んだ瞳と、バランスよく整ったパーツ。前髪はちょっと長めで、意外と背が高い。


ひょっとして、いやひょっとしなくても、かなりかっこいい部類に入るんじゃ……?


そうなるともう先は簡単に読める。恐る恐る周囲を見回すとーーやっぱり。同じ学校の女子の嫉妬の炎と、他校生の羨望の眼差しが向けられていた。

教室とは比べものにならない人数で、その圧力に耐えかねた私は、


「……おはよ」

とだけ返しておいた。


この対応で合っていたのかどうかは、そのときはまだ答え合わせができなかった。でも、今は胸を張って間違っていたと言える。